借金玉さんの発達障害仕事術本を読んだので内容まとめと感想
僕は発達障害ではありませんが、発達障害というハンデをどんなハックでどのように対処するのかに興味があったので読んでみました。
はじめに
本について
- 作者: 借金玉
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/05/25
- メディア: 単行本
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発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術(著:借金玉)
注意事項
僕は発達障害についてはてんで素人です。本記事が本書を読んだ上での僕の感想や認識でしかない、ということはあらかじめご承知おきください。
向いている読者
- 発達障害者が見ている世界について知りたい方
- 発達障害(と思われる)の部下や上司がいて、その性質や傾向を(なんとなくでも)知っておきたい方
- 発達障害という制約をいかにして軽減または解消するか、という一種の考え方や仕組み化について知りたい方
発達障害が抱えるハンデ
発達障害の症状や程度は千差万別ですが、どんなハンデを抱えているかを端的に知りたかったので、自分なりにまとめてみました。
結果、(特に本書で取り上げられている著者の例だと)二つに集約できるのではないかと考えました。フルスロットル と キャントストップ です。
(1) フルスロットル
考え事が常に脳内を駆け巡っているそうです。言わばフルスロットル状態。
そうなると 脳のリソースを、配分すべき対象に、配分すべきタイミングで、配分すべき量を配分できません。「配分すべき対象」には日常的な雑務や社会生活の適応、規則正しい生活習慣、ちょっと言われたことや思い出したことなども含まれます。たいていは無かったことになってしまうか、あるいは「やらなきゃ」とはわかっているのにリソースを回せないせいで結局過ぎてしまいます。
また、眠る時も薬に頼らないと眠れないレベルなんだそう。
(2) キャントストップ
フルスロットルは基本的にマルチタスク的ですが、たまにシングルタスクになる時があります。つまり一つのことに集中できることがあります。しかし自ら制御(意図的に引き出したり途中でやめたり)はできません。Can't Stop です。
自分の興味が強い事物や、締切が迫っている事物には、平気で徹夜してしまうレベルで集中が続きます。これが休日に発動して、気付けば徹夜を過ぎてヘトヘトになっていて、そのまま出社……というパターンもあるそうです。本書では 過集中 と呼んでます。
また、うつ状態の時は、ふと気になったことに何時間も執着してしまう うつ集中 も発生しやすいそうです。本書では「別になくしてもいい、買い直せばいい」とわかっている数百円の付箋がなくなっただけなのに、(頭ではわかっていても)何時間も探し続けてしまうという苦悩を紹介しています。人によっては、ここに過集中が重なることもあるんだとか。
ハンデとどう付き合っていくか(考え方編)
次に、この二つのハンデとどうやって付き合っていくのか――本書が取り上げている「考え方」についてまとめます。
一言で言えば 自分は変えない ということです。自分よりもやり方や環境や道具、つまりはシステムを変えることで、自分でも通用できるようにします。
(余談) これは転職と同じかもしれませんね。ブラック企業やつまらない会社は、いくら頑張っても改善できません。そんなことに費やすくらいなら、さっさと転職した方が有意義ですし現実的です。たとえ周囲の人が適応していたり我慢していたりしても、そんなことは知りません。自分にはムリだから行動するしかない。
自分でも機能するシステムをつくる
本書から少し引用します。
僕はそれから 3 日連続でハンカチを持たずに出社し、上司に大いに呆れられました――(中略)――自宅のドアに大量のハンカチを画鋲で串刺しにしました。毎朝、出勤時にイヤでも目に入るという寸法です。かばんにも 5 枚ほどハンカチを突っ込みました。
これはハンカチを忘れてしまう問題に対する対処法です。
いくら日頃からハンカチを意識できなくとも、このやり方なら関係がありません。必ず目に入るので、(目に入った時にスルーしなければ)忘れず持参できません。加えて、かばんにもあらかじめ忍ばせてありますから、仮に忘れたとしても安心です。
「ここまでやるか?」と思いがちですが、そうです、ここまでやるのです。
自分でも機能するシステムをつくる際、手間暇を惜しんではいけません。
たとえ手間がかかっても、忘れるよりはマシなのですから。
(余談) ちなみにこのテクニックは パッシブリマインド といいます。生活の動線に配置しておけば、そこを通るときに気付けるというテクニックですね。
「こんな性質なんだ」と認識し、淡々と対処する
本書では第二章を丸々費やして、職場の人間関係について取り上げています。
本書では 部族 と呼んでいます。どんな組織(会社や部署やチーム)にも独自の空気や価値観( 掟 と呼んでいます)があり、その組織にいる以上は従わなければなりません。従わないと排他され、最悪職場にいられなくなります。
中には「バカらしい」「そんなことして意味あるの?」といったものもありますが、掟だから(その部族にとっては)必要なのです。 意義なんか考えても仕方がありません。そういう部族の、そういう掟なのだ、と割り切ります。
そして、割り切った上で、淡々と対処します。「こんな掟が存在する」「この掟ではこんなことが求められている」「つまりこういう行動を機械的にしておけば凌げる」といった具合です。言うなれば 掟を現象として観測し、事が荒立たないような行動を見切った上で、機械的に行動する とでも言えましょうか。
たとえば本書では
飲み会はひたすら同意をリピートせよ
とあります。衝突してでも飲み会を断ろうはしませんし、下手に発言を頑張って墓穴を掘ることもしません。必要最小限の行動を機械的にこなせるよう、「同意をリピートすれば凌げる」と理解した上で、実際に同意をリピートするのです。
薬を飲む
本書では第三章と第四章をたっぷり使って、薬の話を取り上げています。
たとえば第三章の睡眠の話では、
結論。早く薬を貰ってください。
とまで言い切っています。発達障害の症状の中には、小手先のテクニックやシステムや気合ではどうにもならないこともありますから、素直に薬に頼りましょうという話です。
ただし、薬にも副作用や依存がありますから、服用には注意が必要です。このあたりの話や経験談も詳しく書かれています。僕は薬を求めているわけではなかったので、本記事ではこれ以上取り上げません。
ハンデとどう付き合っていくか(フレームワーク編)
考え方編の次は、システムをつくる上でポイントとなるフレームワーク(原則や本質)について、本書が取り上げているものをピックアップします。
集約化、一覧性、一手アクセス
これは著者が提唱している「ADHD 傾向の強い人間に使いやすい道具、適合した環境」の原則です。
まず発達障害者は分別や使い分けが苦手なので、
- (1) 集約化 …… とりあえず一箇所にまとめる
を行います。こうすれば(集約した中から探すのは大変かもしれませんが) この中のどこかにある ことはわかっているので失念しなくなります。手間暇をかければ見つかります。
ただ、手間暇は少ないに越したことはないですから、
- (2) 一覧性 …… 集約化した中身を見通しやすいこと
を確保します。たとえば開口部の大きなかばんを使う、記入欄の大きなメモ帳や(アイデア検討時は)スケッチブックを使うなどです。
最後に、見通せたものに対して、なるべく一発でアクセスできた方が楽なので、
- (3) 一手アクセス …… 手を伸ばして一発でアクセスできること
を目指します。たとえば本書では HACK 01「かばんぶっこみこそが最強の戦略である」にて、望ましいかばんの条件 5 について
内部は 4 つ以上に仕分けられ、かつそれぞれ独立の開口部がある
と書いています。これは言い換えれば、一手アクセスできる口が 4 つあるということです。
褒め上げ、面子、挨拶
これは第二章の対人関係パートに書いてあるもので、 どの部族(組織)も持っているであろうメジャーな三大掟 です。
- (1) 褒め上げ
本書では 見えない通貨 と呼んでいますが、頼んだことをやってもらった後や何かを教えてもらった後には 「礼」「褒める」といった見えない通貨を渡す必要があります。これを渡さないと部族の一員として認めてもらえません。必ず渡すようにしてください。その際、タイミングなどいくつかポイントがあり、本書で詳しくまとめてあります(音ゲーにたとえています)。
- (2) 面子
人には(特に先輩や上司など上の人には)面子があります。「伝える順番なんてどうでもいいじゃないか」では済みません。面子を軽視する輩は部族ではありません。面子は尊重しましょう。
- (3) 挨拶
人は挨拶の有無を気にする生き物なので、相手がしなかったからといって自分もしない、だと「こいつ挨拶してこなかったぞ……」と不満を持たれます。その不和が排他を助長します。挨拶は (相手が返してこなくてもとりあえず)毎回こなす、くらいが無難 です。
ネーミング(名前を付けて概念で捉える)
本書では「人の名前と顔を覚えられない」という話が出てきて、その対処として著者は あだ名を付けている と書いています。
万人に当てはまるかどうかはわかりませんが、著者の場合は、
- 視覚から手に入る情報を覚えるのが苦手
- 概念をおぼえたり考えたりするのは得意
とのことで、普通に過ごしていると苦手ゆえに名前と顔を覚えられないため、得意の概念に持ち込んで、上手いことあだ名をつけているのだそう。
(余談) ネーミングの大切さは僕も共感できます。プログラミングの話になりますが、プログラミングでは何十何百何千という記憶領域や処理の塊、つまりはパーツを組み合わせてプログラムをつくります。その際、パーツにどんな名前を付けるかがとても重要です。わかりやすい名前だと「これはこういうパーツだな」とすぐに中身も思い出せて、生かせるのですが、これがわかりづらい名前だと「このパーツは何してんだ?」といちいち中身を確認することになり、仕事になりません。わかりやすい名前は、覚えやすいのです。
ドングリ埋め(大量ストック)
ハンカチをかばんにも仕込んでおくという話を上述しましたが、これは要するに 事前に大量に(あとで必要になるモノを)埋め込んでおけば 最悪モノを忘れてもそれを掘り返して使えばいい、ということです。
著者の例を一つ引用します。
僕は名刺入れを 4 つ持っています。ひとつはかばんの中に、ひとつはスーツのポケットに、ひとつはデスクオーガナイザーに、ひとつは曖昧にどこかに。――(中略)――会社から名刺を貰ったら、そのままスピード名刺屋に持ち込んで 3 倍くらいまで増やします。そして分散して名刺入れや机上、あるいはかばんに分配します。
あらかじめ用意しておくことは面倒くさいですが、それでも「忘れてしまった!」「モノが手元にない!」よりはマシです。備えあれば憂いなし、と言いますが、備えておけば、いざトラブってもドングリを掘り返してリカバリできるのです。
ハンデとどう付き合っていくか(TIPS 編)
考え方、フレームワークと来たので、続いて TIPS 編と称して、本書が取り上げている具体的な手段をピックアップします。
ただしすべてを取り上げると長大になるので、僕が気になったものをいくつか。
かばん
かばんに対する前提:
- 必要なものは全部ぶっこんでおきたい
- かばんが軽いと不安になる
- スマートさは諦める。「この中にある」という安心感さえあればいい
以下の 7 条件を満たすものが良い。
- (1) 十分な容量がある
- (2) 開口部が大きい
- (3) 自立する(地面に置いても倒れない)
- (4) 頑丈である。重要物品の保護材が入っている
- ADHD はよくぶつかるので
- (5) 内部は 4 つ以上に仕分けられ、かつそれぞれに独立の開口部がある
- (6) A4 のバインダーが最低でも 4 つ入るだけのサイズと容量
- (7) 小物が一手で取り出せる、大きく、一覧性の高いポケット
メモ帳
メモ帳に対する前提:
- メモしたい時にメモを開始するためには、メモ帳をすぐに取り出せないとムリ
- メモ帳を紛失したくない
メモ帳の仕様
- 紙の手帳
- スーツの胸ポケットに入るサイズ
- 記入欄がたっぷりある
メモ帳に記入する内容
- 全部(タスクからメモまで)
メモ帳への記入方法
- 最悪どのページから書いてもいい(前ページから順にキレイに書くことにこだわらない)
- 字などは汚くてもいい(後で読み返せればそれでいい)
メモ帳の持ち運び方
メモが不足した時は
- 遠慮なく買い足す
- ただし古いメモ帳はかばんの中に入れっぱなしにしておく
- 下手に片付けようとすると見失う
- 著者曰く『年度の終わりには 3 冊ほどの手帳がかばんに入っていることになります』
アイデア検討用のノート
前提:
- 「喋りなさい」と言われたら無限に喋れるほど思考が常に並列的に働いている
- 思考は積み上げるというよりもあちこち飛ぶ
どんなノートを使うか
- スケッチブック
- 書くスペースが広くて書き殴りやすいから
書き方
- 発想の赴くままに
- 単語や短文を散らして書く
- 矢印でつなげたり線で囲ったり
- 360 度広げていくイメージ
- スケッチブックのような大きいもの
- キレイに書かない。思いつくままに書き殴る
本質ボックス
本質ボックスとは
- 必要だけど置き場所が定まらないものは、箱を用意してそこに放り込む
- 大、中、小(貴重品)と三つまで。これ以上は意味ない
- 探す時は「このボックスの中にある」とわかっている。安心感すごい
なぜ箱にぶちこむの?引き出し等は使わないの?
- 使いません
- だって整理なんてできないもの
- だって保存場所を分散したら見つけられなくなるもの
二度寝を防ぐ方法
方法
- (1) 枕元から 1 メートルほど離れた場所にカフェイン入りの飲み物を用意しておく
- ただしペットボトルのお茶 or 水とカフェイン錠剤がおすすめ
- 「魔法瓶に飲み物入れておいて……」みたいなことはできるはずがない
- (2) (1) をふとんの中から見える場所に置く
- 見えない場所に置いたものは存在しないに等しい
- (3) 目覚まし時計が鳴ったら、(2) を飲む
なぜこの方法で上手く行く?
- 「起きる」とは何か、という目標が具体的だから
- 具体的だと行動できる
自分の体調を測る方法
セルフモニタリングする。もっと言うと 毎日「定量的に」記録する。
記録するもの
- 薬の服用量
- 睡眠時間
- 仕事の成果
なぜ体調を測る必要がある?
- 何も考慮しないと倒れるから
- 体調が悪い時に無理をすると倒れてしまうが、その「体調が悪い」がわからない
- 「自分は怠けている」という強迫観念に襲われることがあるから
- なのでセルフモニタリングして「やばそう」を測れるようにする
感想
発達障害の世界を垣間見ることができた
純粋に興味深かったです。
ネット上の「発達障害とは」「ADHD とは」系の記事みたいな「表面的な "性質の箇条書き"」でもなく、また偉そうな学者さんが他人事みたいにまとめたものでもなく、著者という当事者のリアルな体験や苦悩がつづられていて、このコンテンツだけでも読んで良かったなと思いました。
システムで解決する、というハックの本質を再認識できた
ライフハックの本質は「システム(仕組み)を整えて、頭を使わずとも機能できるようにする」ことです。本書はこの本質を地で行く本だと思います。
僕は発達障害ではありませんが、何かと不器用で人並以下で苦労しているところもあるので、あらためて自分に合ったシステムを考えてみようという気になりました。
対人関係との向き合い方について、一つの解を知ることができた
僕は「ストレスフリーなソロ充」を目指していることもあり、対人関係には極力頼らないようにしているのですが、
stressfree-fulfilling-solo.hatenablog.com
これだと(特に仕事で)不便なんですよね。なんだかんだ一人で出来ることは限られていますし。そもそも僕は今はソフトウェア開発という世界にいるから、部族の掟もゆるくて済んでいるところがあります。こんな部族は少数派でしょう。もっと厳しい掟を持つ部族が多数派のはずですし、いつ多数派の世界に行くかもわかりません。
部族への適応は簡単ではありませんが、本書では 掟を最低限守ればいい と結論付け、端的に原則としてまとめています。無難に過ごすために「これさえ守っておけば無難に過ごせる」という原則を見出しているのです。
このアプローチは見習いたいと思いました。これなら僕でも行動できそう。
著者について
最後に著者情報をリンクしておきます。