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タスク管理を知っている人でも楽しめる『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』

倉下さんの新刊、『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』を読んでみました。僕はタスク管理について既に知っている(と自分では思い込んでいる)人間ですが、色々と学びがあり、また楽しくもあった一冊でした。

本について

全般

「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門 (星海社新書)

「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門 (星海社新書)

  • 「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門
  • 倉下 忠憲 (著)

内容について

タスク管理を全く知らない方向けに、タスク管理について解説した本です。タスク管理の意義、概要、前提知識、運用方法、その他遭遇しがちな問題とアドバイスまで網羅的に扱われています。

対象読者と期待する効果

タスク管理について知らない方から、既に知っている方まで、幅広く活用できる本だと思います。

タスク管理について知らない方:

  • 「タスク管理」という、なんだかよくわからない概念について理解できる
  • どうすれば「タスク(やること)」を効率的に扱えるのか、ヒントを得ることができる

タスク管理について知っている方:

  • 自身の「タスク管理」に対する誤った理解を知ることができる
  • 「タスク管理」という「捉え方は人それぞれ」な概念について、一つの解釈を知ることができる
  • 「タスク管理」あるいは周辺知識に関する、知らなかったことを、知ることができる
  • 「タスク管理とは何か」の探求や「どうやって初心者向けに説明するか」の検討といった「創造的な遊び」に関するインプット、ヒント、刺激などになる
  • 時折読み返すことで「自分にとってタスク管理とは何なのか」を見直すきっかけになる

本書を読んで知らなかったことをひたすらメモする

ここからは感想を書きます。

僕が個人的に「これ知らなかったなー」と思ったことや「へー、そんな視点もあるんだ」と抱いた気付きなどを雑多に書き殴っていきます。 たぶんタスク管理を知っていること前提の、マニアックな内容になるかと思いますがご容赦ください……

表現や国語に関するもの

ホームポジション

本書ではタスク管理の例として、著者のコンビニバイトでの経験を記しています。曰く、タスク(やること)をレシートの裏に書いて、レジの釣り銭受けに貼り付けていた と。

これについて

レジ前がホームポジション

と表現されています。

この「ホームポジション」という言葉は、秀逸なネーミングだと思いました。

タスク管理においては「タスクが書いてある何か(手帳だったりスマホだったりパソコンだったり)」を見る、タスクを処理する、またそれを見る、タスクを処理する……というふうに、その何かを一日に何十回、何百回と見ることになるわけですが、この何かに対する名前はありませんでした。

ホームポジション。

非常に簡潔でわかりやすい言葉だと思います。

※僕は「エントリーポイント」と呼んでいました。これはプログラミング用語でいう main 関数のような「プログラムのはじまり」を指す言葉ですが、わかりにくいことこの上ない。

実地的

タスク管理は学術的に研究され、体系化されたものではありません。ライフハッカーやらブロガーやらが各個人で好き勝手に探求してきたものが適当に広がっている(一部がバズって大衆向けにも出てきたりする)、という感じの世界です。

このような現状を言葉でどのように表現しようか、(タスク管理についての記事を書いている)僕は悩んでいたのですが、本書では明快に表現しています。

ビジネスパーソンやコンサルタントがこの分野を実地的に研究

実地的。

この言葉を見た途端、すとんと腑に落ちた感触がありました。わかりやすいぜ……。

割り込みと脱線

本書では外部から来るのが割り込み、内部から来る(自分の気の緩みとか)のが脱線と書いています。

僕は「内発的割り込み」「外発的割り込み」のように「割り込み」でくくっていたのですが、「脱線」の方が自然でわかりやすいですよね。

リネーム法

中々消化されずに残り続けているタスクに対して、本書ではリネーム法を提唱しています。

要はタスクの記述(名前)を変えてみるということです。

例:沖縄旅行行きたい → 沖縄観光サイト検索結果一番上を10分だけ読んでみる

一度登録したタスクの記述を変える、というアイデアは、当たり前のようで僕は意識してなかったので、へぇと思いました。

タスク管理に重要なのは国語力

本書を通じて伝わってくる主張の一つに タスクという言葉を表現する能力の重要性 があるように思います。もっと言えば国語力、いや語彙力でしょうか。

タスクとは結局のところ「やること」であり、もっと言えば「あとで自分が読めるように書いた言葉」です。なるべく正確に理解できる言葉を、なるべく短い言葉で書く必要があります。また、タスク管理には様々な概念が登場しますが、これらを表現する用語も人によってまちまちなので、「この人があえてこの言葉を使って、この概念を表現している意図は何か」といったことを推し量る必要も出てきます。語彙力があれば、このあたりを楽にこなせます。

タスク管理は、タスクという言葉を扱うといっても過言ではない。ゆえに国語力が必要だ――本書にはそんな主張があるように感じました。実際、本書で用いられている語彙も秀逸で、タスク管理について僕も理解を深めることができました。これも著者の語彙力だからこそでしょう。

「そういう捉え方があるのか」と思わず唸ったもの

ルーチンタスクを無視するというスタンス

僕はルーチンタスク(繰り返し行うタスク)こそタスク管理するべきだと思っています。日々何度も繰り返していることを意識的に管理下において、必要最小限の頻度と順番でこなせるように整える――そうすれば毎日の家事が、たとえば 2 時間から 1 時間になるんですよ。僕はしまいには ルーチンタスクの本 を書いちゃうくらい、ルーチンタスク派です。

しかし、本書では「ルーチンタスクは些細なタスクだから管理しなくていい、という立場もある」ことを取り上げています。コラムでサクっと取り上げてあっただけですが、これを読んで、

ああ、そういう見方もあるのか。

と僕は妙に納得しました。ルーチンタスクなんて所詮は日々の雑事なので、最悪忘れても問題ない、それよりもルーチンではない、新しく発生したタスクたちこそ重点的に管理した方が良いよね、と。なるほど一理ある。

リストとはフィルタリングの結果である

概念的な話になりますが、本書ではリストは A という属性を持ち、リスト中の項目は A という属性でフィルタリングされたものだとも言える、のような説明をしています。

もっと言えば リストとはフィルタリングの結果である とも言えましょうか。

そういえば Remember The Milk というタスク管理ツールでも スマートリスト という機能がありました。「ある観点でフィルタリングした結果をリストとして保存」するものです。

僕はリストを「ただ項目を書き並べたもの」と捉えていたので、この見方は本当に新鮮でした。

リマインダーとして「メールで自分の送る」

僕はリマインダーを多用していますが、大体はケータイのアラームか、自作したタイマーアプリでした。

本書では「メールを自分自身に送る」というリマインド方法も紹介しており、「ああ、そういう方法もあるのか」と目からウロコでした。

レビューの最終目的

何かと頭を悩ますレビューですが、本書ではレビューの最終的な目的を 「適切な場所(リスト)にタスクが保存されているか」 と定めています。また、同期のようなものだとも言っています。

シンプルな解だと思いました。

この解釈だと、レビューという作業が「各リストを点検して項目を修正・移動・削除すること」「新たなタスクを適切なリストに追加すること」という単純な作業になります。レビューという「なんかよくわからない、何していいかわからない」ものに、明快な指針を与えてくれます。

僕は GTD に取り組んでいて、レビューで色々悩んでいたところなのですが、これで少し前進できそうです。

ふた

オープンリストとクローズトリスト(本書ではクローズリスト)の説明として、 蓋が空いていて追加できるかどうか という表現がされていました。

今まで読んだ説明の中で一番わかりやすかったです。

タスク管理のスタンスについて

本書では「タスク管理とどう向き合うべきか」について、一つの指針を紹介しています。

まず、

  • タスク管理というとすべてシステマチックに管理したくなるが、それは不可能
    • 理由1. タスクの価値そのものは扱ってないから
    • 理由2. タスクの価値は簡単に変動するから
    • 理由3. タスク管理に取り組む人間が不完全で自堕落な生き物だから

とした上で、じゃあどうすればいいかというと、

  • ある程度はテキトーでもいい
  • 最初は(たったそれだけ?とバカらしくなるくらいでいいので)少しずつ取りいれていく

の二点を勧めています。

言われてみれば当たり前のことですが、この「完璧な管理を目指す」という罠、意外と陥りやすいんですよね。僕もよく落ちます。

この罠には、今後も陥らないよう気を付けたいところです。

失敗を構成する 7 つの理由

本書ではタスク管理やタスクの実施に関する失敗(というか一般論としての失敗)について、その理由を 7 つに整理しています。

  • 失念(忘れた)
  • 倦怠(飽きた)
  • 過信(余裕やろ → 全然余裕じゃない)
  • 流転(変化)
  • 呪縛(こだわり)
  • 雑把(曖昧さ。具体性がないこと)
  • 多望(強欲。いきなり完成を求めたり、すべて叶えようとしたりすること)

僕はタスク管理において「失敗」という観点で捉えたことが無かったので、これはとても新鮮でした。レビュー時に使うトリガーリストに書きたいくらいです。

知らなかったこと

本書で取り上げられていた周辺テクニックのうち、知らなかったものを簡単に。

山根式袋ファイル

野口さんで有名な「押し出しファイリング」の、時系列順じゃなくて「あいうえお順」で並べるバージョンの整理方法です。

パレットジャーナル

アナログの手帳にデイリータスクリスト(というよりただの箇条書きスペース)をつくり、他にもあると便利な記入エリアを適宜つくる……みたいな、割と自由な手帳運用手法です。書き方は色々あるみたいですが、索引(インデックスページ)をつくってアクセスしやすくするのがポイントのようですね。

43 Folders

一年分の保存領域を、たった 43 個のフォルダ(月 12 個と日 31 個)で実現するという整理術です。

そのカラクリは「当月の月フォルダに、日フォルダを全部ぶちこむ」「新しい月になったら日フォルダもまるごと移動する」「各日フォルダには、その日にやりたい or やるべきファイルを入れる」という運用にあります。

おお、頭ええな、と思いましたね。

余談ですが、これをデジタルで実現するツールを勢いでつくっちゃいました……。

GitHub - stakiran/43folders_for_windows

(余談) ハッシュタグは #やるおわ

本書の略称は「やるおわ」のようです。ハッシュタグで検索すると他の感想などを見ることができます。

おわりに

ほぼ備忘録となってしまいましたが、間違いなく買って良かった一冊でした。

少なくともタスク管理が趣味の人(そんな人がそうはいるとは思えませんが 苦笑)は楽しめるはずです。また、タスク管理を知らない方も、これを期に読んでみると良いでしょう。タスク管理は、学ぶのは難しいですが、知っているのと知らないとでは日々の生活や効率に雲泥の差が生じます。最初の第一歩として、さわりを知っておくだけでも、後々違ってくるはずです。