ガラパゴスタ

楽する。楽しむ。生み出す。

カクヨムで 66 万文字の小説(ライトノベル)を書いたので感想書く

カクヨムで 2 年近くかけて 66 万文字くらいの小説を書いた。

こんな経験もそうはないだろうから、忘れないうちに感想というか所感をまとめとおく。

※カクヨムの使い心地などカクヨムネタは出ません

(余談) 書いた小説

本題逸れるので解説はしない。あと題材がエグいので自己責任でお願いします。

時間がなくなっていく……

「もう数時間経った」

これが日常になる。理由は二つあって、

  • 単純に楽しいから
  • 単純にやることが多いから

この二つ。前者は言語化できないのでおいといて、後者を。

創作は言ってしまえば「他人が読んでもわかるレベルで詳細に世界をつくりあげる」ことだと思う。キャラも、舞台も、建物とか天気とかも、キャラ同士の掛け合いや積み重ねていく行動とその因果関係も、全部自分でつくらないといけない。冷静に考えて狂気の沙汰である。よくやるわホントに。まあそういう「ものづくり」の過程こそが楽しさなんだと思うけど。

逆を言えば、このプロセスを楽しめない人には書けないかもしれない。

少しでも書きやすいネタを選ぶと楽

とりあえず「完結させる」体験はしてみたかったので、少しでも自分にとって書きやすいネタや設定を選んでいった。

  • 自分が詳しい趣味を取り入れよう
  • 主人公は自分の性格や嗜好に寄せよう
  • 主人公は裏の顔隠さなきゃいけない、隠さないといけない事情は? → 殺人系……は詳しくなくてだるい → (盗撮ニュース見る) → 仮に学校で盗撮していたとしたら? → 頑なに隠す事情になりそう → いける!
  • ファンタジーとか知識なくてよくわからんので、現実の学園を舞台にするしかない
  • 金持ちキャラ登場させたいけど、世間一般の常識やラノベの鉄板はよくわからん → 僕が考える「こういう金持ちがいてもおかしくないでしょ」で行こうか
  • キャラをたくさんつくるのは苦手なので、ヒロインは三人くらいに押さえておくか
  • 覚えにくいので、名前は特徴的にしよう
    • 佐久間琢磨(さくま・たくま)
    • 東雲志乃(しののめ・しの)
      • ついでにいうと「東雲」は地名
      • マンガ「恋は光」 の丸パク を参考にしました
  • ……

などなど。

これが正解だったように思う。おかげでなんとか完結できた。

もしかしたら「ご都合主義すぎる」とか「いまいちピンと来ない」とかいった問題があるかもしれないけど、最初からクオリティ高い小説なんて書けるはずもない。まずは完結が第一。そのために少しでも自分にとって都合の良い方向に寄せていく。趣味の、最初の一歩なんだからそれでいいのだと割り切った。今でも後悔はしていない。

※個人的には「リアリティが感じられる程度のクオリティ」にはできたと思っている。

設計(キャラ、ストーリー、プロット)は大事

プログラミングでも設計してからコーディングするけど、小説でも同様に設計は大事だとわかった。

  • 小説のコンセプト
  • キャラの設定
  • ストーリー
  • プロット(ストーリーを沿うためのサブストーリー)

これらが決まってないと、何書けばいいかがわからなくなってきて永遠に時間が溶ける。逆に、先に決めちゃえば、あとは細かい肉付けをしていくだけだから楽。

どこかで「設計が決まったら九割終わったようなもの」みたいな言葉を見たことがあるけど、そのとおりだと思う。実際に本文を書くという肉付けは、一割でしかない簡単な作業なのだ(まあ素人の僕はここもきついのだが)(表現調べたり辞典引いたりラノベの地の文を参考にしたり……)。

でも設計はしんどい

でも設計はしんどいことが多い。

最初のうちは自由に妄想・想像するだけなので楽しいが、より詳しく固めるレベルになってくると苦しくなってくる。たとえば、

  • 矛盾がないように設定をつくりあげる
  • 辻褄合わせ
    • 例:想定してるエンディング End.1 に対し、今はキャラ A が言動 XXX をしちゃってる(もうアップした)。でも XXX から End.1 に結びつける自然な展開が思い浮かばない……
    • ↑ リアリティのある展開をなんとかしてひねり出さないといけない
    • ↑ エンディング変える、でも良いがどのみちしんどい

こういうの。

加えて 設計中は本文が一切進んでおらず、進捗が感じられない という心理的ダメージがある。これも結構きつい。進捗は文字数など定量的にはかることしかできないので、進捗ゼロ、という現実は中々に心をえぐってくる。

趣味の創作でも進捗を意識してしまう(精神的に割ときつい)

一つ以外に感じたのが、たとえ趣味の創作であっても(ガチでやってるなら)進捗は意識してしまう、ということ。当然プレッシャーや思い通りに行かない感があるので精神的にきつい。

なんで意識しちゃうかというと、

  • (やること考えることが多すぎて)軽い気持ちではそもそも完結まで至れない → ガチで取り組むしかない
  • 数日でも空けてしまうと、また一通り頭に入れて集中し始めるまでに時間がかかる → 毎日取り組むしかない
  • (一応今は毎日定時退社の会社員だが)今の余暇がいつまで続くかわからない → 創作はある程度のところで切り上げて副業・勉強にシフトせねば → 早めに完結するしかない

こういった制約により いま、ガチで取り組んで、なるべく早く完結させる しか道がないから。そうなると、たとえ趣味であっても進捗は意識することになる。進捗が芳しくないと苛立つし、焦るし、無力感に苛まされることもある。

キャラが動き始めると楽

いわゆる「キャラが勝手に動く」を僕も体験した。後半(40万文字以降くらい?)からだろうか。

こういうシチュを設定して、このキャラとこのキャラを置いたら、あとは自然に台詞や挙動が浮かんでくる――そんな感じ。

それまで僕は一から捻り出していた。「まずはキャラ A がこの発言をする」「そしたら B はこう、C はこう反応するのが自然なはず」「先に B から発言させるか」「次に C」「すると、B が先なのを受けて、C は(こういう経緯があったから)突っかかってくるはず」「突っかからせてみる」「そうしたら、A はウンザリするよな、台詞を入れて」と、こういうレベルでいちいち検討し、書いて、並び替え、修正する……みたいなことをしていた。

キャラが動き始めると、この手の作業がなくなる。「どうやってもこういう展開になるでしょ」というパターンがすぐに、はっきりと浮かんでくる感じになる。僕はそれをひたすら書き殴るだけ。一通り書いたら、あとは地の文を入れたり、細かい修正をしたりして、完成。楽しい「一割の肉付け作業」である。

動き始めると楽だなぁ、楽しいなぁと思いながら、後半はとにかく楽しく書けた。

※なぜ動き始めたのかはわからない。書いてきたことで、僕の中で設定が固まってきたからだろうか?だとしたら、最初の設定段階(あるいはそれ以前の日頃の妄想の段階)で固められる人は、たぶん序盤からキャラが動くはず。なんとなくだけど、商業作家はこのレベルじゃないかと思う。この「キャラが動くレベルまで(自分の中で)設定を固める」力は、僕が思うに、作家の才能だ。この才能が無いと、人と人が織りなす物語は書けない(書ききるところまで辿り着けない)んじゃないかと、僕は思った。

ツール、プロセス、システムを工夫すればポンコツ頭でも書ける

作家というと「地頭という地力の化け物」というイメージだけど、そうじゃない凡人でも工夫すれば、紛いなりには書けるレベルになる。そのことを自ら証明できたかなと思う。

僕はエンジニアということもあって、その手のこと(やり方の改善)は得意なので、かなり力を入れた。

  • テキストエディタ(軽くて検索しやすい)
  • アウトラインで見出し単位の俯瞰・ジャンプ
  • バージョン管理
  • 大きな画面、複数のウィンドウ、デュアルモニタ
  • 四段階の執筆
    • step1: 台詞だけ
    • step2: 「ここでこういう感じの風景」「日時はこのへん」 ← 地の文案を加える
    • step3: step2 の地の文をつくりこむ
    • step4: プロット、ストーリー、設定と矛盾がないかという観点での修正
  • 推敲の戦略
    • 四段階の執筆を終わらせる(この時点では推敲しない)
    • 四段階の執筆は章単位まで続ける
    • 章単位で「四段階の執筆」が溜まった後、はじめて推敲を開始する
    • 推敲は n 周する
    • 推敲時は「おかしいところを指摘するモード」と「指摘した内容を修正していくモード」を使い分ける(指摘しながらその場で修正、とかはしない)
  • 生産的に書ける生活にする
    • 毎日定時退社(にして時間をつくる)
    • 早起き(朝の冴えた頭で創作する)
    • 三食ちゃんと食べる(健康とエネルギー)
    • こまめに休憩する(長期戦なので小手先の長時間よりも長い目で見た継続)
    • 恋人要らない、友達要らない
  • ……

と他にも色々あるが、とにかく自分に合ったやり方を取り入れてきた。

  • 自分の性質
    • 神経質な朝型人間
    • シングルタスク脳で、同時に一つのことしかできない
    • レスポンスの遅延 0.1秒でも許せないので、とにかく軽いエディタで書きたい
  • ↑ これらにあった執筆スタイルとは?

商業作家は怪物

たとえば 丸戸史明さんは 15 万文字/月くらい だが、これでも十分えぐい。週休 2 日、月 20 日労働としても、7500文字/日 書かなきゃいけないのだ。

僕の場合、1日7500文字は朝から集中して、かつ順調なペースで続いた場合に達成できる水準。それをコンスタントに保つだと……どんな安定おばけだよ。

からくりは単純で、地力と時間の違いである。

  • 丸戸史明さんは僕以上のクオリティの文章を、僕以上のスピードで仕上げられる地力がある
  • 丸戸史明さんは「疲れた頭」でも執筆を続けられる地力がある
    • 一方、僕は無いので、1日 4-6 時間くらいしか使えない

いったいどれほどの経験を積めば、上記の能力水準に至れるのか……。想像もつかない。

実際に小説書いてみて、自分の底力がわかったことで、改めて商業作家さん(ここでは丸戸さんしか挙げてないが)の水準がわかった。有り体に言って化け物だ。それとも学生時代からガチっていればそれくらいの強さは身に付くものなのだろうか。わからん。

※ちなみに 西尾維新さんは 2 万文字/日 だそうで 意味がわからん of わからん。僕も イベント参加後の翌日朝に 1.6 万文字のレポートを書いた ことがあるけど、西尾さんの水準って、たぶんこの「即座に語れる」レベルを常に担保している感じ……なのかな?

妄想を昇華するという心地よさ

僕はよく妄想する。妄想はできるだけリアルに満たしたい。が、手段は限られていて、妄想上でリアリティを突き詰めるか、言語化(得意ならイラストなどでも良いが)するか、あるいはコンテンツでブヒるかしかない。

ここに、新しい選択肢があるとわかった。それが「自分の書いた小説上で妄想を形にする」こと。

僕はたとえば以下を形にした。

  • 身体能力を隠して俺 TUEEEE すること
  • 魅力的な女の子の性的アピールにも負けない(ほど自分を持っている)こと
  • パルクールを使ったリアルな逃走戦をすること
  • パルクールの哲学やあり方などマニアックな話で盛り上がること
  • 大富豪でありながら、体裁や常識にとらわれず、自由気ままに生きること
  • 学校という手作業非効率雑務のオンパレードを ICT で賢く自動化すること
  • ……

僕の厨二心を晒してて恥ずかしいが今更だ。ともかく、妄想は楽しい。そんな楽しい妄想を自分の手で肉付けしていき、時にはキャラと相談し、時にはリアリティの有無をネットで調べる。そうやって息を吹き込んでいき、妄想をリアルにしていく――楽しくて、愛着も湧いて、ああこんな世界があるのかとひとりでテンションが上がっていたこと何度も。

作家がのめり込むのもわかる気がした。

やっぱり秀丸エディタが神

執筆は結局秀丸エディタで書いた。

30 代のおじさんには一番バランスが良い。縦書きや正規表現をはじめ、痒いところに手が届くポテンシャルを備えている。そういえば以前 執筆を効率化したい人のための秀丸エディタ実践入門 という電子書籍を書いたけど、この本のネタをフル活用した感じ。

ポメラ DM200 も神

ブレスト、下書き、プロットづくりなどはポメラ DM200 で書いた。

こやつもまた優秀で「操作性を損なわない程度に限界まで小さい」というバランスを見事に実現している。エディタもアウトラインあるし、ショートカットキーあるしで、まるで秀丸エディタ。DM200 をつくった人は、わかっている。

DM200 の携帯性は通勤、飲食店、病院の待ち時間、会社の昼休憩など「スキマ時間」にピッタリだった。僕は会社員だし、フル外食勢なので、どうしても待ち時間はある。そこをほぼ無駄にすることなく、創作に充てられたのは大きい。たとえ一日 30 分くらいであっても、積もれば山となるのだ。まして、その間は集中して設計やら下書きやらしている(つまり発想が求められる創造的な仕事を進めている)のだから、なおのこと。

もうですね、DM200 は 10 万出しても買うレベルですよ。いや本当に。もし買うのに迷ってる人がいたら、いいから買ってみてほしい。執筆ライフがマジで変わる。困窮してなければ、他を多少犠牲にしてでも(たとえば夫婦間で不仲になっても 笑)買う価値がある。

作家は二種類に分けることができる。DM200 を知る作家と、そうでない作家だ。

一日一話ずつ更新、はやめるんだ

僕は最初から「一章分を全部仕上げてから」予約投稿で出していくことにしていた。

これは正解だった。

バージョン管理(編集履歴管理)を辿ってみると、昔のプロットと今のプロットとではまるで別物。エンディングも変わってるし、何ならヒロインも変わってる。もし全部仕上げずに投稿していたら、早々に破綻していただろう。

全部仕上げずに更新していいのは、頭の中だけでつくりあげられる天才だけだ。僕は背伸びしても無理。

だから「早くアップしたいなぁ」「まだまだ先は長いなぁ」と挫けそうになっても耐えられた。天才でなければ、仕上げてから小出しする以外の道はないのだから。

調べ物はネットでいい

大体の景色は画像検索で手に入るし、言葉の定義や類語・対義語などは Google から辞書で辿れる。

紙の辞書も、図書館も、要らないなぁというのが正直な感想。無論、ディープな話を扱うとなると、そうもいかないのだろうが。

ネットサーフィンには気をつけろ

油断していると 30 分くらいすぐに吸い取られる。

  • 調べ物の最中に見つけた面白いブログ
  • カクヨムやなろうの作品
  • すごい作家さんのプロフィール、関連作品、Twitter アカウント
  • 同上、作品のレビュー欄
  • ……

気付いたら、上記のウェブサイト達に時間を吸われている。

なので結局僕はこうした。

  • 調べる時は「~~について調べる」というタスクを先にまとめた上で、まとめて集中的にやる
  • キッチンタイマーを仕掛けるなどして、意識的に区切る
  • 書く時はネットを遮断する(アダプターのプロパティから無効にするなど)
  • ポメラ DM200 を使う(デフォでネット繋がってない)
  • ……

結果として、ネットに脱線する率が減って、執筆が捗ったように思う。

※まあ僕が作家として誰とも SNS と交流してないのも大きいのだろうが。たぶん作家仲間いる人はもっとしんどいと思う……。

図表は遠慮なく書け

頭の中だけで頑張ろうとするのは愚の骨頂。時間の無駄。

さっさと図を描く。表にまとめる。

僕の場合、登場人物の関係図とか、校内見取り図や周辺の地図、あとはワゴンに座ってるキャラたちの位置関係など、いちいち図示して、それ見ながら書いていた。

でも設定資料は厳密に書かなくていい

だからといって陥りがちなのが「設定資料」を厳密につくろうとすることだけど、どうせ書いてたら変わっていく ので、あまりこだわらなくてもいい。

むしろ書かなくても良いレベル。

これは真理かどうかわからないけど、結局のところ 自分の頭の中で扱えるボリュームの世界しか書けない ので、設定資料を拡充させたから「頭のキャパシティを超えたレベルで物語を構築できるぜ!」とはならない。

もし「キャラ 4 人分くらいしか詳細設定を覚えられないよー」だとしたら、それがあなたの地力なのである。

ちなみに僕は最終的に設定資料を書くことを放棄した。しかし、覚えられる設定量は初期と比べて明らかに増した。最初は 1 人でもきつかったのに、終盤では何人ものキャラについて、割と細かい設定まで覚えていた。この辺の能力って、ある程度は鍛えられるのかな?

プログラマー脳は捨てるべき

これは結構時間がかかった。

プログラミングに親しんでいると「些細なミスやエラーは全部コンパイル時に潰せる」し、何ならテストコードを書いちゃえば意味的にも検査できる。が、自然言語で物語を紡ぐ小説にはそんな仕組みなどない。コンパイルもテストも全部自分でやらないといけない。

このギャップというか現実を前に、一回心が折れそうになった。結局「そういうものだ」と割り切るしかなかったが、最初の数ヶ月くらいは引きずっていたように思う。今は平気。

おわりに

以上、ざっと書いてみた。

しんどい時もあったし、(ビジネスマンとして)貴重な 30 代をこんなことに費やしていいのかという罪悪感もあったけど、なんだかんだ楽しかったし、「長い小説をちゃんと完成させる」という一つの夢(というと大げさだが)も叶ったので、後悔はしていない。

というわけで筆を置く。